ジ ェラ山地が海岸まで迫るアルバニア南部は、その奥に豊かな平野部が開けている。ジロカスタルは県庁所在地でありながら、中世の趣を残す落ち着いた美しい町だ。微妙なアルバニア語の発音のため、語頭は「ジロ〜」とも「ギロ〜」とも聞こえ、語末も「〜タル」とも「〜テル」とも聞こえる。しかも語末は欧州各国語(Gjirokastra)風の「〜トラ」もよく使われるのでややこしく、ネット検索では全ての組み合わせの表現が見られるほどだ。ジロとは銀のことで、中世のビサンチン時代から銀の町もしくは銀の砦と呼ばれてきた。
ここから南はアルバニアでもギリシア人が住む地方となっており、ジロカスタルはイスラムのアルバニア人と正教のギリシア人の境界線上の街である。市内ではモスクと正教寺院が共存しているのが面白い。
文化的にも北部ギリシアとの共通性が見られ、例えば見所となっている旧市街の町並みは北ギリシアのザゴリア地方のような印象でもある。旧市街は平野部の新市街から離れ、山に少し入った傾斜地の山ひだに張り付くように展開している。
まずは、丘の頂にある11世紀の古い城[写真右]に行ってみたい。旧市街の中心、バザール広場から自動車道路を歩いて10分ほどの登りだ。人気の無い真っ暗な軍事博物館を彷徨いながら抜けていくと、券売所が現れてほっとする。城からの町の眺めは抜群だ。石瓦の古い町並みや山腹にしがみつくように立つトルコ時代の邸宅が美しい。町中には高層建築は殆どなく、木々の疎らな山地に広がる広大なドリン川沿いの平地とともに、心休まる風景が展開する。
町を見下ろす丘の先端部にある時計塔[写真左]は町じゅうから見渡せるシンボルだが、14世紀にトルコの侵略を受け、若いアルジロ姫が山頂にある城の塔から息子と共に身を投げたと言う、悲しい逸話で知られている。
町はそれなりの大きさだが、見所は城のすぐ下の旧市街の1km以内に集中している。旧市街の中心はかつてバザールだった広場で、小さな高みから六辻の各方向に延びる古い家並みは壮観だ。家々は明るいグレーをした大きな石瓦に白壁のトルコ時代の建物が多く、その中には立派な館もいくつか含まれる。
アルバニアの交通事情は最近かなり改善されてきたが、一番便利なのは首都のチラナからではなく、ギリシア北部のイオアニナ空港からのアクセスだ。イオアニナ市内から国境近くまでは路線バスもあるが、空港からタクシーを乗り継いで行くのが最も便利な方法だ。
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