"地中海,フランス,マントン,menton"
どこかホッと落ち着く国境の町
Menton
マントン
(フランス)♦♦
Centro
Storico

ビーチからの均整の取れた旧市街の眺め

思議なほど、落ち着いたアットホーム雰囲気が、町の隅々まで行き渡っている。
 国境の町、マントン。旧市街から20〜30分歩くと、そこはイタリアだ。
 たいてい国境の町は、どこか開放的で無国籍であるか、逆にどんづまりの閉塞感に覆われていることが多い。
 だがマントンは、あまりにも典型的な居心地の良い港町だ。リゾート開発が極まった南仏で、それはむしろこの町の貴重な特長となっている。

歩行者天国のサン・ミッシェル通りはいつも賑わっている

 コートダジュールの高級リゾートとは違った観光色のない庶民的な明るい町は、シェンゲン協定とユーロ導入で実質的な国境が消えた今、リビエラのよくある町の一つに収まっている。
 フランス国鉄は、全ての電車がこの町を通り抜けてイタリアのヴェンティミリアまで走り抜けているし、町ではイタリア語が良く聞かれる。
 町の雰囲気がまるでイタリアそのものであるのには、訳がある。この町がフランスに編入されたのは1861年のこと、それまではモナコ公国を始め、常にイタリア人国家に属していた。


町並みに溶け込む市役所

を覆うように広がる旧市街を境に東西で、町は全く違った顔を見せる。
 町の心臓部は、後背地の山が海へと最も近づいた丘の中腹で、ひときわ威容を放つサン・ミッシェル教会だろう。
 その西側は、どこまでも真っ直ぐな海岸沿いに平地が開けている。鉄道駅やバスターミナルの辺りまでは、商店街になっている。
 レストランや土産物屋が並ぶサン・ミッシェル通り、市民生活のショッピングセンターとして何でも揃うレプブリック通りなど、何往復しても楽しい道のりだ。
 そのなかの一つの建物が市役所になっているのだが、マントンを愛したジャン・コクトーが壁画を手掛けた「婚礼の間」があることで知られている(見学可能)。

ホテル「プランス・ドゥ・ゴール(Prince de Galles)」のテラスの朝食

 マルタン岬(キャップ・マルタン)に向って一直線に続く海岸は、すばらしいプロムナードだ。特にカジノまでの間は、プロムナード・デュ・ソレイユ(太陽の散歩道)と呼ばれる園地になっている。
 その先へも海岸線はまだ続く。片手に真っ青な海と太陽、片手には緑の山々。海沿いには、遥か外れの方までマンションやホテルが並んでいる。この付近は遊泳禁止だが、海の眺めは、遮るものが何もない素晴らしいものだ。コートダジュールの中では手頃に泊まれるこの一帯で宿を取れば、リゾート気分をたっぷり味わえる。
 一方、旧市街の東側は、国境にかけて小さな湾になっている。海岸はビーチとヨットハーバーになっている。町に面したこじんまりしたビーチは大人気で、その前にある数軒のホテルの予約は、特に夏季のシー・ビュー(海側)の部屋は至難の業だ。


市街が広がる山が、まさに海に落ち込む部分は小さな岬状になっていて、そこにある小要塞が、現在ジャン・コクトー美術館となっている。

かつての砦の建物を生かした、ジャン・コクトー美術館

入口のモザイクは海の小石で作られているという


 そこから、朝市の立つ広場、今や観光客向けではあるが大規模な青空市場のあるマルシェ広場、体育館のような屋内市場レ・アール、美味しそうな食堂やカフェ、名産の食材・香水店などが並ぶエルブ広場(Place aux Herbesプラス・オー・ゼルブ)を通って、繁華街のサン・ミッシェル通りへと向かう。町の中でも、一番賑やかで魅力的な一帯だ。

市民の台所「レ・アール」市場

 サン・ミッシェル通りに出て、少し左(西)には、名産のレモンを使った香水や石鹸の専門店「プレスティージ・ドゥ・マントン」がある。派手なレモンの看板ですぐ分かるので、覗いてみたい。

レモンのフレグランス専門店「プレスティージ・ドゥ・マントン」

焼きたての香ばしいソッカ

 右(東)方向は、すぐ海岸に出て通りは終わるが、その手前の美味しそうなソッカに足止めされるに違いない。ヒヨコ豆のペーストを薄く焼いた、何も載っていないピザのような食べ物だ。
 リグリア地方のファリナータと同じ物で、マントンからニースにかけてのフレンチリビエラではそう呼ばれる。
 そのまま香ばしいおこげを味わうのが一番うまい。並んでアツアツの焼きたてをぜひゲットしたい。
 このあたりから坂になった路地を登っていくと、サン・ミッシェル教会に出る。
 狭い旧市街に窮屈に立つ教会は、目の前まで行ってもその全貌を表さない。教会前の海に開けたテラスはちょっとした見晴らし台だ。
 だが、もう数分坂を上がったビュー・シャトー墓地付近からの展望が一番美しい。
墓地は立ち入ることができるので、一巡りしてみてるのも良い。墓石や植栽の間から市街越しに煌めく海を望むことができる。

ビュー・シャトー墓地脇の展望テラスからの風景。サン・ミッシェル教会の美しい姿が印象的だ。

 最高の展望テラスは、意外にも墓地の中ではなく、入口脇のベンチの周辺だ。斜面に重なる旧市街の家々と、サン・ミッシェル教会越しの地中海が美しい。
 入り組んだ坂道の路地となった旧市街を縫って下っていく。狭く曲がりくねった道にも関わらず、意外にも明るい感じがするのは、斜面のため光が届きやすいことに加え、ピンクや黄色に彩られた外壁のためでもあるだろう。


気軽に出かけられる海辺のレストラン

の町での食事は、全く気取りがない、庶民的な地中海料理だ。
 ジャン・コクトー美術館からサン・ミッシェル通りにかけての市街に、テラス席を並べる幾つもの食堂がある。
 具沢山のニース風サラダや、地元のハム、また肉のグリルなどを注文したい。元々がイタリアの町だったので、ピザもまた美味しい。

地元高級食材店のディスプレイ

 また海岸沿いのレストランのテラス席で、ムール貝や魚のグリルを味わうのも気持ちが良い。
 激しく往来する車をたくみにかわしながら、調理場から道路を隔てた海岸のテラス席まで運んできてくれる。
 レモンの産地として知られるマントンは、2月に行われるレモン祭りで名高い。冬の厳しい季節ではあるが、タイミングが合えば訪ねてみるのも良いだろう。