海と向かい合った運河の町
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ヴェネチアの住人は、今でも自家用船を生活の足とする者が少なからず存在するが、先進国では稀なそんな町がここにもある。それが、ポール・グリモーだ。
一見ヴェネチアとそっくりに見える町の成り立ちが、全く異なるものであることも興味深い。
ポール・グリモーは、都市計画家であり、ヨット愛好家でもあるフランソワ・スポエリーの個人的情熱によって、1966年に人工的に作られた町だ。
地中海に面し、張り巡らされた運河を持つ町の形
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それなのに、古くからそこにあったかのように自然に溶け込んでいるのは、彼の緻密な設計と法的規制とにより、プロバンスの自然や風景との調和をとことん追求した結果なのだ。
町は、海で暮らすことを望む住人のために作られている。湿地を埋め立てる際、運河のように多くの水路を残し、それが道路ならぬ水路として、車の乗り入れが制限された町の交通手段となっている。
小さな島と橋のモザイクはヴェネチアのよう
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家々は、伝統的な建築手法にのっとり景観を妨げぬよう厳しい制限の元で許可される。だから、個人個人の住居の寄せ集めであるのに、全体計画があるかのように美的バランスが取れている。
理想的リゾートとしてフランスじゅうに名を轟かすことになったこの町には、サン・トロペに近いこともあり、多くの観光客が訪れる。
ポール・グリモーの入口にある、橋と城門のようなアーチ
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プライベートな土地で町の大部分が占められており、船でもなければ入ることすらできないわけだが、教会や商店が並ぶ一角が公共地になっており、隣接した陸側の大駐車場に車を止めて訪れることができる。
駐車場が異様に大きい理由は、他にもある。実はこの町は、観光スポットであると同時に、サントロペへの船の発着所でもある。サン・トロペは混雑が激しいので、ここに車を止め、船に乗り換える人が少なくないのだ。
町の中心マルシェ広場には、商店やレストランが並ぶ
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ポール・グリモーの公共地区へは、橋で運河を渡って城門のようなアーチを潜り、さらにもうひとつの橋を渡って入る。そこは、マルシェ広場(Place du Marché)と呼ばれ、レストランやブティック、さらには日用品類が売られる、町の中心地だ。週二回の市が立つ日は、賑やかであるという。
その一角に桟橋があり、定期航路の発着所と、また住民の家の前に繋ぎきれない大型ヨット用のマリーナになっている。
陰影が印象的な内陣の十字架
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ヴィクトル・ヴァザルリ作の色鮮やかなステンドグラス
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最初に、広場の海側で大きな存在感を示している、サン・フランソワ・ダシズ教会(L'Église Saint Francois d'Assise)に入ってみよう。町で唯一の大きな建築物であり、近くの海を航行する住人にとって、町の目印になのだろう。
外観に劣らず内部もモダンな教会で、内陣の十字架の陰影、ヴィクトル・ヴァザルリ(Victor Vasarely)による光と色彩感に溢れたステンドグラスは、一見の価値がある。
さらに階段を登って教会の上に出れば、海に浮かぶように築かれた町の全貌が手に取るように分かる。特に、家並みが海に浮かぶように見える地中海側の眺めは絶景だ。
教会上から見る町の姿は絶景だ
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ゴンドラ気分で橋の下を潜る
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観光客が町内を見るには、方法がない訳ではない。広場の桟橋から、決まったコースを一周する遊覧船が出ているので、乗ってみることにする。
マルシェ広場を出ると、反時計回りに小さな円を描いて町内の水路を一巡する。出発してすぐの商業ゾーンでは高層建築もあり、遊覧船が橋をくぐる時は、ヴェネチアのゴンドラに乗ったような気分になる。
建物の水路に面したテラスがレストランになっていて、これもヴェネチアそっくりだ。
水際のレストランのテラス
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住居地区に入ると、一軒ごとにパステルカラーに塗り分けられた、長屋のように並んだ建物になり、家の前のスペースには、大小さまざまな船やボートが係留されている。
住人が、その特等席にテーブルを置きくつろいでいる。扉が閉まり、船が見えない家は、多分出かけているのだろう。
波がなく静かな水路には、多くの小船が行きかっている。ヨットを操る者、またモーターエンジンを載せただけの、今にも沈むかと見ていてハラハラするような小さなゴムボートで行く者もいる。
この遊覧船と同型の船も通る。自宅と公共地区を結ぶ、住人専用船だ。
小さなエンジンつきゴムボートで移動する住民
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この町の家は、水路に面して係船杭と玄関がある
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立派な樫の木のある広い敷地の邸宅もある
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住民専用の町内巡回船
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クルーザーに乗った気分で、サン・トロペへの定期船に乗り、町から海へと漕ぎ出してみるのも、面白い。
同じ桟橋が乗り場だが、混雑期は事前要予約が必要だ。当日、チケット売り場で、時間を指定して購入すればよい。
混雑する海への出口。自家用船の給油スタンドがある。
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町の水路網から直接の海への出口は、一箇所だ。大型クルーザーから小型ボートまでが行き交い、かなり混雑している。海に出る直前に、ガソリンスタンドのような看板が出ている。自家用専用の給油スタンドだ。
そして、水路を抜けると、波を受けて船が揺れ始め、目の前がパーっと開けて、大海原になる。この先サン・トロペまでは、20分ほどのクルーズだ。
マルシェ広場にあるオテル・ル・シュフラン
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町には2軒のホテルがある。オテル・ジラグリア(Hôtel Giraglia)は地中海に面した高級リゾートホテル、オテル・ル・シュフラン(Hôtel Le Suffren)はコンドミニアムを兼ねたリーズナブルな宿だ。
ひとときの住人になった気分で、滞在してみるのも悪くない。
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