地中海,フランス,サン・トロペ,saint tropez,st tropez
今なお、時に漁村の顔を見せるリゾート
Saint-Tropez
サン・トロペ
(フランス)♦♦
Centro
Storico

要塞から眺める港町サン・トロペ

まりにも有名な高級リゾート、サン・トロペ。行ってみれば、立ち止まることもままらなぬほどの、人・人・人。このサイトで推奨の町"centro storico"として取り上げることに、少なからずためらいを感じたが、地中海を愛する者にとって、やはりこの町の魅力は、捨てがたいものがある。
 古からの歴史を持つサン・トロペだが、多少の盛衰はあれ一漁村にすぎなかったこの地に、19世紀後期には画家たちが住み着き初め、20世紀には映画スター、ミュージシャン、デザイナーなど、ありとあらゆる超有名人のお気に入りの場所となった。

ラノンシアード美術館の落ち着いた佇まい

 そして今は、特に夏の間は、近郊のホテルや別荘に滞在するセレブと、我々のような日帰りの旅行者とが同居する、喧騒と雑踏の世界となっている。
 それにもかかわらず、ちょっと裏通りに入ったり、シーズンオフでも訪れれば、古い漁師町の風情が失われずに残っているのに出合うであろう。
 この町は、サン・トロペのほか、サン・トロップと呼ばれることもあると言う。サン・トロペという発音は、フランス併合前のプロヴァンス語の"Sant Tropés"に由来するが、一部の人は後者のフランス語風の発音をしているためであろう。
 古来の正しい発音がメジャーであり続けられるのも、町が有名になったお陰であるのかもしれない。



夏の日の旧市街は、行き交う人波が途切れない

ーズン真っただ中の、8月の町に出かけてみた。
 街の中心街は混雑が激しく駐車(係船)場所すらないので、車も船も町外れの駐車場かマリーナに入れ、旧市街へと歩いていく。  マリーナの中に、数十万ユーロで展示販売されている使用感のないひときわ綺麗なクルーザーが見えるのが、いかにもサン・トロペらしい。
 旧市街の港に着くと、いよいよ雑踏が酷くなり、どちらへ歩いていいのか分からないくらいになる。

岸壁沿いの観光客向けレストラン街

 かつて画家たちが場所を争ってイーゼルを立てたという岸壁を、現在は自作を売りこむ未来の巨匠たちの色彩豊かな作品が占拠している。さらには、駐車したミニバイク、立ち止まる観光客、街灯などを縫うようにラッシュアワーの中を前進する。
 混雑に気を取られ、その一角にある有名なラノンシアード美術館を、気づかず通り過ぎないように、注意したい。
 港沿いに半周も回ると、通りを挟んで岸壁に面したレストラン街になっている。観光客相手の店であるのは明らかな上、テラス席に座っても、通行人の人間観察くらいしかできないだろうと、足早に通り過ぎる。

塔のある岬を回ると、漁師町の風景に一変

 この岸壁のプロムナードは、港の先端で海に面した塔、トゥール・デュ・ポルタレで終わる。
 ここから堤防沿いに先まで歩くと、初めて人並みから開放され、美しい町をゆったり眺めることができる。
 さて、塔からさらに海岸を進むと、雰囲気は一変する。

塔のある岬を回ると、漁師町の風景に一変

 道は岩場の遊歩道となり、小さな浜辺がある。この風景は、地中海によくある小さな漁村と同じだ。陸地から建物のアーチをくぐり浜に伸びる道は、恐らく船を引き上げに使った道だろう。
 大観光地から鄙びた漁村への、幕が変わったような風景の転換に驚くと共に、町の魅力を感じる瞬間でもある。



かつての船道らしい海への通路

歩道は海沿いにどこまでも続いているが、アーチをくぐって陸側に入ると、街路は登り坂となって海と平行に、丘の上まで続いている。汗をぬぐいながら松林の中を登ると、頂上に着く。
 星型の城壁に囲まれた六角形の堅牢な砦は、典型的な中世の軍事要塞の形式だ。
 要塞からの眺めは、とても印象的だ。サン・トロペ教会の頂上ドームの黄、鐘楼の淡朱、町の瓦屋根の橙、森の緑、そして・ントロペ教会と、真っ青なサン・トロペ湾のコントラストの美しさに、登ってきた苦労を忘れるほどだ。大変だがぜひ行ってみたい。

 再び旧市街へ下り、港の奥のリス広場(Place de Lices)の方に回ってみる。カフェに縁取られた木陰の涼しい広場には、日によって定期市が立ち、市民がペタンクを楽しむ、典型的なプロヴァンスの風景が展開する。

タルト・トロペジエンヌ

元祖の「ミッカ」

 ここから港に抜ける何本もの狭い通りに沿って、市民や庶民的な観光客向けの店が並ぶ。
 今やこの町ならず地域の銘菓となった、タルト・トロペジエンヌ(カスタードクリームをブリオッシュでサンドした菓子)を試してみたい。名付け親は、撮影での滞在時にこの菓子を気に入った女優ブリジッド・バルドーだと言う。
 ジョルジュ・クレメンソ通りのミッカ(Micka)が元祖だが、今やどのカフェや菓子屋でも売られている。