本 来のヴァンスの姿は、歴史遺産が目白押しの中世さながらの町。
しかし不幸なことに、コートダジュールのリゾート地域に隣接するこの町は、観光客向けの土産物店とレストランで埋め尽くされている。
数々の由緒ある建築物は、日よけのパラソルに遮られ存在すらも確認し難く、美しい町並の壁は、看板と商品の間から僅かに顔を覗かせているに過ぎない。
周囲を城壁を兼ねた円形の高層建築に囲まれた、直径約150メートルのヴァンス旧市街に、数箇所の城門から中に入ってみる。夏のリゾート客でごった返す旧市街は、歩くのも大変だ。
迷路のような路地が張り巡らされ、時には路地は建物の下をトンネルのように潜っている。点在する広場が、建て込んだ城内のアオシスのようだ。一番大きい市庁舎前のクレメンソ広場も、沢山のレストランのテーブルに占拠され、小さなスペースしか空いていない。
たった一本だけ、地元民のための生鮮食料品や惣菜、それに気軽な食堂が並ぶ薄暗い通りがある。生活のにおいがするこのマルシェ通りに入ると、何故かほっとする。
谷を挟んだ反対側の斜面に、聖ドミニコ会のロゼール礼拝堂がある。マチスがデザインした黄・緑・青の三色で構成されたシュールでモダンなステンドグラスは必見だ。
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