"地中海,ギリシア,オリボス,オリンポス,カルパソス,カルパトス,olympos,olimpos,karpathos"
中世の伝統に生きる孤高の町
Olympos
Óλυμπος
オリボス
(カルパソス島 −ギリシア)♦♦
Centro
Storico

複雑な形で山に張り付く町の造形美

の町とさえ呼びたくなるような孤高の町が、カルパソス島北部の海を臨む高地にある。
 そもそも島がすでにエーゲ海の外れ、首都から最も遠い孤島であり、長さ約50kmの細長い島の北部は砂漠のような乾燥した荒地に覆われ、ほとんど人が住んでいない。
 その中心地ピガジア(Pigadia/Πηγάδια)とこの町の港であるジアファニ(Diafani/Διαφάνι)とを、夏でも週3回のフェリーが唯一の公共交通として結んでいる。山の上にあるこの町への9kmの道のりは、さらに連絡バスで登っていくことになる。


町の中は細い坂道で繋がっている


 この秘境の町にも、21世紀に入り車道が開通した。以前からジープ専用の山道はあったが、ついに普通乗用車で走行可能な道路が未舗装ながらも整備され、隣の村スポア(Spoa/Σπ ό α)から約20kmの走行で入れるようになった。
 またシーズン中は観光ツアーが組まれ、毎日のように船が出港するので、それを利用するのも良い。

 町の名を、オリボスという。日本ではオリンポスと呼ばれるようだ。ギリシア語のμπは二文字でbと発音されるが、文字としてはローマ字のmpに相当するため誤読されるらしい。
 英語でも表記が乱れており、ギリシアの地名では良くあることだが、世界的に読み方が混乱しているように見える。

海に面したテラス状の高みからは激しく崩れ落ちる海岸線が一望のもと

 ここの住人はもともとカルパソスの北のサリア島に住んでいたが、ギリシア・ローマの衰退と共に海賊の襲撃を受けるようになり、敢えて海から見えない不便な山の上に町を移したという。
 周辺の山上に村を作り、台地を開墾して作物を育てた。島の支配者は次々と変わったが、オリボスの人々は大きな影響を受けずにひっそり暮らしていたようだ。
  カルパソスがギリシアに復帰した1947年以後、一部のオリボスの住人は山を降り、海岸沿いにジアファニの町を建設した。

まさに秘境らしい壮絶な町の姿

代に入るまで、オリボスはカルパソス島の中心地だった。
 しかし海からは急峻な崖の上に幾らかの家が顔をのぞかす小集落にしか見えず、中心部は外部から目立たぬ位置にある。
 その孤立した地勢条件のため他の地域との交流が少なく、古い伝統を残す村として知られるようになった。

山へに向かって連なる風車の残骸

 逆にそれが、カルパソス島を訪れるリゾート客の格好のエクスカーションの目的地となり、半ば観光化しているようだ。
 シーズン中は観光客で賑わうというが、訪れた冬の季節には殆ど人影がなく、近年発展してすっかり塗り直されて一新された印象の街並みではあるが、農作業に出向く老女の黒い衣服や、山の上の崩れかけた荒い石組みの風車に、辛うじて秘境の雰囲気が保たれいてた。
 町に入る1km手前の小さな聖堂の脇で、ジアファニ(Diafani/Διαφάνι)から登ってくる道と、スポア(Spoa/Σπ ό α)から山を縫って続く道とが合流する。ここから眺めるオリボスの姿は、とても印象的だ。灰白色の険しい山に覆い被さるように方形の小さな家がびっしり張り付く様子が、強烈に迫ってくる。

建物に歩道に散りばめられた独特のデザイン

雑な形に広がる町は、全容を把握しがたいが、大まかに言えば、フタコブラクダのコブの間に町が乗っているような感じだ。
 南北を高い山に阻まれ、東西は海と谷とに落ち込みながら、立体的に伸びている。
 その東側の谷に位置する町の入口の小さなスーパーの前で車道は終わり、細い歩道を歩き始める。

町の入口であるジアファニの港を遥か下方に見下ろす

 街並みは、島の他の町とは明らかに異なっている。平たい屋根の家々は白いものが多いが黄色く塗られているものも少なくない。
 手すりや壁の唐草模様や記号のような独特の装飾があしらわれているのが目をひきつける。
 ほどなく峠状の部分に出ると、息を呑むような光景だ。入り組んだ海岸線は激しい崖が連続し、急傾斜で海へ落ち込む斜面の上部には点々と家が散らばり、山に向かう稜線上には古い風車の残骸が連なっている。

伝統的な三絃の民族楽器リラ(lyra)

 山に向かって、鶏が右往左往する足場の悪い小道を進むと、崩れかけた風車の下に出る。見下ろす町の姿は、よくもこんな場所にというほどの絶景だ。
 見晴らしの良い小さな町の広場の脇の教会が、唯一の大きな建造物で、その周辺に数少ないカフェニオンがあるくらいだ。シーズン中には、土産物屋やタベルナも開店しにぎやかになるらしい。
 静かな町に、少々気の抜けたような太い音色が響き渡っている。地元の人によれば、ツァブナ(tsabouna/τσαμπούνα)というバグパイプの一種だと言う。紀元前から伝わる楽器で、ヤギの皮で作った袋に吹き口が付いた奇妙な形の楽器だ。
 島の中心地ピガジア(Pigadia/Πηγάδια)からオリボスまでは、陸路にしても海路にしても、断崖にそそり立つカルパソスの海と島のスペクタルを楽しむ素晴らしいツアーになる。ぜひ訪れてみたい町のひとつだ。