崖淵のサン・ピエトロ・カヴェオーゾ教会とサンタ・マリア・デ・イドリス岩窟教会
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ナポリ以南のイタリア半島で最も見所のある都市といえば、間違いなく世界遺産の洞窟都市マテーラであろう。
実は地中海沿岸では、洞窟に住む家というのはごく普通に存在する。
洞窟と聞くと石器時代の住居のようなイメージだが、むしろ日本でも最近は増えてきた地下室を、縦方向ではなく崖を掘り進んで横方向に伸ばした家といえば、イメージを掴みやすいのではないだろうか。
町の中心ヴィットリオ・ヴェネト広場の下にも古い地下空間が縦横無尽に広がる
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洞窟住居は、暑く乾燥した夏を迎える地中海地域では、自然の理にかなったリーズナブルな住居形態なのである。もっとも現代の洞窟住居の多くは、入口部分に通常建築の部屋を増築しているので、外見上は普通の家と代わらない場合も多い。
これらの洞窟住居は、イタリア南部の他の都市をはじめ、スペイン、チュニジア、ギリシア、トルコなど各国の地方都市の斜面に良く見られ、決して珍しいものではない。
高台から眺めるサッソ・カヴェオーゾ地区
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ではなぜ、マテーラの洞窟住居が有名になったのであろうか。
県庁所在地であるマテーラは、洞窟住居が残った都市としては比較的大規模で、しかもつい最近(30年ほど前)まで都市として機能していたためであろう。
スラム化したこの地区は、政府の貧困対策による集団移転により一時廃墟となった。しかしサッシ地区が貴重な歴史遺産として注目を浴びるのと相まって、現在、再生・利用が進んでいる。
プルガトリオ(骸骨)教会のコミカルなガイコツ達
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マテーラの都市構造は極めて特徴的だ。石灰岩の台地に深く刻み込まれたマテーラ川。その右岸の高台が緩い傾斜に始まり最後は崖となって川に落ち込む、その斜面を削って長さ1km以上、最大幅500m以上の地域に迷路のように入り組んだ道が張り巡らされ、洞窟住居が密集している。
ドゥオーモの丘が、割り込むようにテラス状に張り出して地区を南北に二分しており、北側がサッソ・バリサーノ(Sasso Barisano)、南側がサッソ・カヴェオーソ(Sasso Caveoso)と呼ばれている。また、両地区を合わせたサッシ(Sassi)という地名は、世界遺産に登録されてから日本でもよく聞くようになった呼び方だ。
ドゥオーモとサッソ・バリサーノ地区
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古典的な形態の洞窟住居
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街の中央の高台にあるサンフランチェスコ・ダッシジ(S. Francesco d'Assisi)教会からドゥオーモへと続く尾根をドゥオーモ広場まで行くと、地区全体を上から見下ろすように眺めることができる。
サッシには、街の中心であるヴィットリオ・ヴェネト広場(P. Vittorio Veneto)から渓谷を見下ろす断崖に立つサン・タゴスティーノ(S. Agostino)教会へ下っていく道から入っていく。教会からは渓谷の崖上端をかすめる道を辿る。ドゥオーモを見上げながら、右にサッシ地区、左に渓谷の絶景を眺める素晴らしいプロムナードだ。
この最下層の一帯は紀元前、古代ギリシアの植民地だった時代に街の中心であった一番歴史の長い地区だ。
渓谷の反対側には、使われなくなった洞窟がそのまま残っている
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ビザンチン帝国時代には、領内のトルコがイスラム勢力に奪われ、カッパドキアなどの修道僧が大勢移り住んだ。
彼らは故郷と同じような地勢のこの地に、いくつもの僧坊や修道院を作り、その廃墟の一部は今に至るまで残されている。
大聖堂の真下あたりに位置する比較的大規模なマドンナ・デッレ・ヴィルトゥ(Madonna delle Vietu)とサンタニコラ・デイ・グレーチ(S.Nicola dei Greci)の教会跡は、入口から掘り進んで何部屋もある立派な地下建造物になっている。内部にはいくつかの色鮮やかなフレスコ画が残されている。
崖っ淵のプロムナードは、渓谷に張り出したサン・ピエトロ・カヴェオーゾ(S.Pietro Caveoso)教会で終わる。よく見ると、渓谷を挟んで目の前に迫る対岸の崖にも、同じような岩窟が多数見られる。
岩窟教会のファザードは本当に質素
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すぐ背後には大きな岩塊があるが、その岩の頂上付近には、岩をくり貫いた洞窟教会であるサンタマリア・デ・イドリス(S.Maria de Idris)教会がある。【右側および下方写真】
岩窟教会内の聖母マリアのフレスコ画
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この先道は細くなるが崖に沿ってさらに進むと、有料で見学できる洞窟の家や、岩をくり貫い作られたサンタルチア・アッレ・マルヴェ(S.Lucia alle Malve)教会を初め、いくつかの洞窟教会跡がある。光があまり届かないためか、キリストやマリアをはじめ、聖人たちを描いたフレスコ画がまだ色鮮やかだ。
対岸からの市街の驚くべき眺め
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最後に車で対岸のティモーネ展望所(Belvedere Timone)に回ってみよう。街をいったん出て渓谷の反対側に回り込む。最後は高台の上の草原となるが、それこそ崖から落ちないよう気をつけながらぎりぎりまで車を進めていく。目の前は奈落の底だ。
だが、ここまで来た甲斐があると思わせるに値する驚くべき風景だ【右側写真】。岩窟都市マテーラの全貌が渓谷を挟んで目の前に堂々と展開する。ドゥオーモを中心に、要所要所に教会が配置され、それらに抱きかかえられるようにサッシの街並みが広がっている。
この対岸の一帯は、街としては全く使われていないため、中世の数多くの岩窟教会跡が残されている。史跡公園になっているので、一つ一つをトレッキングで巡るのも面白い。
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