の都ヴェネチア、もはや言い古された言葉だ。埋め立てを重ねて海上に拡張した都市、水路が張り巡らされ交通手段は徒歩と船だけ。少なくともイタリア観光に行ったことのある人なら一度や二度は見たはずの光景だ。
ヴェネチアへは飛行機、列車、車で入る。マルコポーロ空港は、ターミナルビルから出るともうそこは海、という信じがたいロケーションにある。すぐに水上タクシーに乗り込み、海に面したホテルの正面玄関に船付けするのが正解だ。列車で到着した場合も、駅舎を抜けると駅前広場かと思えば、いきなり海になっている。街は大小様々な運河を挟んだたくさんの島の集合体で成り立っていて、それらは橋で結ばれている。島内は迷路のような石畳の路地が張り巡らされている。路地と橋をつないで最短距離で目的地にたどり着くのは至難の業だが、それができるようになると本物のヴェネチアーノだ。 |
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タリア各地を旅してきたなら、この町の全くイタリアらしからぬ雰囲気に驚くであろう。建物を飾るエキゾチックな装飾、耳慣れぬヴェネト語、そして背が高く青い目のゴンドリエ(ゴンドラの漕ぎ手)たち。それはこの国の歴史抜きには語れない。ヴェネチアは約200年前まで、ヴェネチア共和国の首都であった。そしてこの国の領土は、現在のクロアチア、ユーゴスラビア、ギリシア、キプロスへと広がっていた。まさに東地中海ないしは中東の国の首都であったのだ。だからヴェネチアは、この街について1冊の本ができてしまうくらいの見所とエピソードに満ちている。
主要な建物は全て運河に面していて、運河側に正面玄関を持っているので、観光は水上からするのが正しい。時おり横切るヴァポレット(渡し舟)やゴンドラを眺めながら進んでいく。 ゲットー(ユダヤ人居住区)を過ぎて先へ進むに従い、重要な商館や邸宅が多くなりファザード(建物の正面)が豪華になっていくのが分かる。市場を過ぎるてすぐ潜るのがリアルト橋だ。
水面を賑わすゴンドラを避けながらさらに進むと、両岸の建物はますます大きく豪華になっていく。大学、教会、美術館、税関など、公共施設が多くなってきたのだ。白亜のサンタマリア・デラ・サルーテ教会の美しいシルエットと、かつて共和国への入口の役目を果たした海の税関のシンボリックな造形が目に焼きつく。その先は海への出口で、ここで一気に視界が開ける。
一方、左手奥の鐘楼は、最上部から海に浮かぶモザイクのような奇跡の街の眺めが楽しめる。L字型に曲がった奥の部分が、今や観光客に占拠されてしまったサンマルコ広場である。 |
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在日数に余裕があるなら、一つ一つの裏の路地を回るのは本当に楽しい。小さな運河で、自宅の前に止めてある自家用船で用足しに出かける住民の姿、地元民御用達のオステリア(食堂、兼居酒屋)に旅情が感じられる。視点を変えてゴンドラに乗って水面から街を見るのも面白い。また有名なカルナバル(謝肉祭)を始め、レガッタ、スポザリーツィオ・デル・マーレ(海との結婚)などの祭事に訪れ、街の伝統を感じてみるのもよいだろう。
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