ベ ルベル人は、海岸部をアラブ人に追われて後背地に移住した北アフリカの先住民だ。チュニジア南部のダハール山地(Jebel Dahar)は、砂漠の入口に広がる赤茶けた山地であり、ここにもそんなベルベル人が多く住み着いている。
その生活ぶりは最近でこそ、かなり近代文明の影響が強くなってきたが、19世紀に入ってすら、彼らが事実上異民族の支配を受けずに自活していたベルベル色の強い地方である。
ドゥーイラートは、茶色の岩山の山頂付近の古い美しい村で、今でこそ珍しくなっている昔のベルベル人の暮らし振りを感じさせる、貴重な集落だ。現在ほとんどの村人は便利なふもとのアラブ風の集落に転居してしまい、ほぼ廃村に近い状態になっている。しかしNGO組織のASNAPEDがドゥーイラートの保存と再生を目指し地道な活動を続けており、集落の形は依然としてほとんどそのまま維持されている。
訪れるのは、思ったほど難しくない。南チュニジアの拠点都市のひとつフーム・タターウィン(Foum Tataouine、単にタターウィンと呼ばれることが多い)は、砂漠の中に忽然と現れる賑やかなオアシス都市だが、ドゥーイラートへは、立派な舗装道路を車で飛ばして僅か22kmの道のりだ。
タタウィンに着き、何の変哲もないちっぽけな田舎の村と目の前に聳える茶色い山に戸惑うが、道路標識に従い旧市街の方へ車を走らす。道はまっすぐ茶色い山に向かっていき、かなり近づいて、そこが村であることに気がつく。大地と全く同じ色の石で作られた旧市街は、見事にカモフラージュされている。
家々は半分は岩山をくり貫いた洞窟状、半分はそれを手前に伸ばした石組みの部屋、そしてさらに前方の庭で成り立っている。洞窟住居は、夏の暑い日は50℃近くまで気温が上がるこの地方での生活には欠かせない。
旧市街はほとんどゴーストタウンに近い状態だが、荒れて壊れた家がある一方で、いくつかの家は明らかに手入れがされている。真茶色の村で白いモスクだけがひときわ異彩を放っている。
壊れた家を覗いてみると、玄関には赤い手形、そして内部の壁には絵記号のような模様が壁に浮き彫りで描かれている。意味はわからないが、ベルベル人にとって重要な意味のあるものであることは間違いない。
旧市街からの、砂漠の眺めはそれは雄大なものだ。山岳地帯なので多少ごつごつした感じの茶色い大地が遥かかなたまで続いている。所々にみえる白い、何かイスラムの礼拝所のようなものだろうか、それがアクセントとなって風景を引き立たせる。
近くの有名なベルベル人の村シュニニーとは違い、この村の旧市街にはバスも車も滅多にこない。心に深く印象を残すチュニジアの思い出となるだろう。
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