多 島海の、カシュからカレ(デムレ)にかけてのトルコ南西部のエーゲ海。島影の小さな岬の丘の上に、本当に小さな村、カレがある。15キロほど東にあるサンタクロースの墓所として有名なカレと同名であるが、それに対してこの村はカレキョイ(Kaleköy)すなわちカレ村とも呼ばれる。
カレには道路がない。一番近いウチャウズからも歩いて1時間はかかる。唯一の交通は船だけなので、ツアー客でもなけれぱウチャウズから船をチャーターして行くしかない。そのため、ツアー客の上陸時を除けば本当に静かな村の雰囲気が保たれている。
船で村に近づくにつれ、山の上の城塞跡と斜面に点在する集落の印象的な風景が迫ってくる[写真2]。桟橋から上陸するとすぐ海にテラス席が張り出したレストランになっており、魚や野菜中心の素朴な手作り料理を味わうことができる。数十軒の村の家々の多くは漁師であるか、レストラン、カフェ、絨毯屋、ペンション、海上タクシーなどの観光業に従事している。古い建築物の一部を家に取り込んで活用して住んでいる様子は、まさに遺跡と共に暮らす村そのものだ。
こ こはかつてシメナと呼ばれていた。紀元前5世紀にリキアの小都市として建設されたと言われている。
城に向かって登っていくと、ようやく後のビサンチン時代の城壁が現れる[写真3]。この中が旧シメナ市街跡だ。まず石をくり貫いたような300人規模の小さな劇場が現れる。これほどまでに小規模なローマ式劇場を見るのも初めてだが、海とケコヴァ島を背景にした素晴らしい立地は大劇場にも引けを取らない。城壁内はほとんど建造物は残っておらず、まっすぐ頂上の城まで進む。
城跡からの景色はまさに360度の大パノラマ[写真4]。眼下にカレの村や港、対岸には水没した町で有名なケコヴァ島、反対には出航したウチャウズの港など、海と潅木とに覆われた多島海の風景が展開する。城壁の外の山陵部に目を凝らすと、今なお2000年前の墓石がそのまま林立するネクロポリスが見られる。
帰り道、眺めの良いカフェで、靴を脱いで絨毯を敷き詰めたテラスで寛ぐのも良い[写真5]。港の岩陰の海の中に、リキアの石棺が一つ浮かんでいる[写真6]。度重なる地震で地盤沈下して土台が海中に沈んでしまったものであろう。ぜひ対岸のケコヴァ島まで足を伸ばして水中遺跡を探勝してみたい。
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