「スペイン領アフリカ」ないしは、Sovereignties in Africa of Spainという表現が正しいのかどうか、いろいろ調べてみましたが確実なことはわかりません。しかし少なくとも、アフリカ北部の地中海沿岸に、スペイン本土とは異なる直轄の海外領土が存在することは確かです。

　スペインは北アフリカのスペイン対岸（モロッコ周辺）に、５箇所の海外領土を保有しています。セウタ、メリリャの２つの都市（自治都市）、それにペニョン・デ・ヴェレス・デ・ラ・ゴメラ、ペニョン・デ・アルホセイマの２箇所の岩礁群、チャファリナス諸島です。市民が生活しているのは２つの自治都市のみであり、同じく訪問可能な地域でもあります。またチャファリナス諸島は自然保護地域として知られています。スペイン本国は、この５箇所にいずれもスペイン軍を駐留させ、モロッコの侵攻に備え守備を固めています。

　スペインはレコンキスタ運動で、１４９２年グラナダを落とし、イベリア半島全土に支配を広げました。しかしそれ以前の１４１５年にポルトガルはセウタを攻略し、つづいてタンジェからアガディールまでの主要沿岸都市を確保しました。また遅れてスペインもモロッコ南部のイフニ、東部のアル・ホセイマ（１４９６年）、メリリャ（１４９７年）を押さえ、さらに１５０９年のオランを皮切りにアルジェリアからチュニジアにかけての諸都市を制圧します。大西洋の諸都市は主に奴隷・香辛料貿易の中継点、特にイフニはカナリア諸島への中継点としての意味がありました。また地中海のスペイン領はイタリア支配の中継所としての意味がありました。
　しかしアラブ人、ベルベル人のジハード（イスラムのレコンキスタ）により押し戻され、難攻不落の要塞都市セウタ（ポルトガルより譲渡）とメリリャ以外のすべてが短期間のうちにアラブ、ベルベルの手に戻りました。

　モロッコは歴史的に常に強国でしたが、１８４４年にアルジェリアをめぐるフランスとの戦いに敗れてから次第に国力が衰え始めます。スペインは１８８４年には西サハラの一部（モロッコ最南部）を、続いて１９１２年にモロッコがフランスを受け入れ独立を失うと同時に、残りの西サハラ、イフニ、そして地中海沿岸のエル・リフを手に入れました。
　そして１９５６年、モロッコの独立回復と同時に、本来スペイン領であった地域を除き、エル・リフはモロッコに返還されました。またイフニは１９６９年にモロッコに返還され、西サハラは１９７５年モロッコに占拠されました。残されたスペイン領アフリカに対しても、モロッコは１９７８年に領有権を主張し始めました。

　これらの地域が本来どこに属するのかは難しい問題です。セウタは、アラブ・ベルベル人に約７００年間占拠されていた時期を除けば、一貫してヨーロッパ圏に留まっており、キリスト教支配下に入ったのも１４１５年と、むしろスペインのアンダルシア地方よりも早いくらいです。
　一方メリリャは中世に入ってからスペインが獲得した土地であり、返還要求に一理あるような気もします。しかし、だからといって中世以後の占領地を全て返還していたら、世界中の少なからぬ国が消滅してしまうことでしょう。