クロアチア料理(イストラ・ダルマチア料理)についてもう少し詳しく
前ページの写真説明を、ここにまとめました(番号を参照してください)。
クロアチア(イストラ地方・ダルマチア地方)の料理は、かつての支配国であるイタリア、ハンガリー、オーストリア、トルコの料理が、共存する形でメニューを形成しています。ちょうど日本の食卓で、日によって鍋料理、ハンバーグ、ラーメン、カレー、スパゲッティが出されるのと同じような状況です。
しかし地域によって濃淡に大きな違いがあり、イストラ半島はイタリア、北西部はオーストリア、内陸部はハンガリー、東部はトルコ料理が優勢になっています。また海岸部はイタリア料理も普及していますが、紛れもない本物のイタリア料理が出されるイストラ半島から、本場の独自の変化をしたダルマチア海岸まで、質的な差も大きくなっています。
そのためここで紹介した料理は、地方によって食べられたり食べられなかったりします。また同じ料理名でも味付けが全く異なっていたりします。前ページ末尾の写真撮影地の後に記号をつけたレシピは、比較的出される地方が限られているものになりますが、レストランによる差も大きいので、あくまでも参考程度と考えてください。
素材と調理法で表現した料理が多いため料理名が固定されておらず、店によって名前が変わることが多いです。また素材名の表現(単数/複数、属名/種名)、素材名と調理法の組み合わせ表現(形容詞形/名詞+前置詞形、前置詞の種類)、方言(料理名に古語となったイストラ語、ダルマチア語らしき語彙が残っている)、外来語とクロアチア語などで様々な表現になります。例えば、"kampi na buzaru"とあれば、素材が手長エビ(kampi)、調理法がブザーラ(buzaruは格変化した形)であることが分かれば十分です。ここで使用した名称は一例に過ぎません。
またクロアチア語の発音の多彩さ、長音の分かりにくさから、カタカナ表記の発音が納まりが悪い部分も多いと思います。
不備な点がいろいろありますが、ご容赦ください。
食堂の分類はイタリア(リストランテ、トラットリア、ピッツェリア)と同じく、レストラン(restoran)、コノバ(konoba)、ピッツェリア(pizzeria)に分かれており、その役割もほぼ同じです。
内容や形式にもこだわった正式な食事はレストラン、実質的でお得な食事はコノバ、軽食や空腹を満たす場合ならピッツェリア、となりますが、特にレストランとコノバの差はあまり大きくはありません。
クロアチア人は日常的に外食しないため、外食と言った時点で「特別なこと」になります。だからコノバの料理も十分美味しく、お値段もそれなりです。それでもイタリアよりは物価が安く、一人3000円程度で満足する食事を楽しめます。
観光地での食事時間は、昼食は12時ごろ、夕食は19時ごろからと、日本と同じ感覚です。
店による実力差は大きいので、都市や観光地など、人が多く集まる場所で美味しい料理に巡りあうには、ガイドブック(英語・ドイツ語・イタリア語)、口コミサイトなどでの情報収集が重要です。以下は、実際に行ってみてよかった店です。ひとことで言って、クロアチアの料理は西高東低です。相対的な評価ですが、イストラで美味しく、ドブロブニクでは不味くなります。選んだ店も、西部中心になってしまいました。
< 前菜 >
コースの一部として前菜を取る習慣はないらしく、あまりバリエーションはありません。一品料理(主菜)にするには軽い一皿をここに載せました。家畜としてブタが一般的なのでプルシュトゥ(生ハム)[1]は、美味しいです。チーズはパグ島のパグ・チーズ[2]が有名です。味・香りとも最高にバランスの良い、やや硬めのチーズです。パグ島へ行って食べる機会がなくても、近く他の島のレストランのメニューにも登場します。タコのサラダ[5]は、この地方のほとんどのレストランにある人気メニューで、旨みを閉じ込めて十分やわらかく煮た逸品です。タコは煮るとすごく縮むので、皿いっぱいに盛ったタコサラダ料理の材料は、どれほど沢山だったのでしょうか。サルマなど詰め物系[9,10]はトルコ料理由来の品で、トルコと交流が深かった旧ラグーザ共和国(ドブロブニク付近)方面でわりと見かけます。フリタヤ[11,12]はフリッタータ(イタリアオムレツ)の系譜を引く料理らしく、西の方でたまに登場します。オムレツとも訳されますが、もっと柔らかく、卵とじとか炒り卵といった感じで、ふわっと戴けます。
< 一皿目の料理(スープ・パスタ・リゾット・ピザ) >
空腹を満たす、スープ、パスタ、リゾット、ピザをまとめて便宜的に一皿目としましたが、特にそのような分類や習慣はなく、まあこの手のものを何か一品とるみたいだ、くらいに思ってください。
スープでは、魚のスープ[22-24]が抜群に有名です。アドリア海の豊かな海の幸ならではの、ダシのよくきいた贅沢なスープがお手頃価格で楽しめます。白身魚を使うのでブイヤベースより上品で、日本人好みと言えます。ダシをとった魚介類を少し戻して加えることがあり、またパスタスープ的に少し米を加えるのも特徴です。店によりオリジナルのレシピがあり、食べ比べるのも楽しみです。ダルマチア地方ではトマトを加えることがよくありますが[24]、その場合当然味がかなり変わってしまいます。だからイストラ地方のスープ[22,23]がお勧めです。
イストラの山のスープでは、豆と野菜を煮込んだ優しい味のヨタ(イスタルスカ・マネシュトゥラ)[21]が印象に残ります。
クロアチアのパスタには、ぜひ注目してください。本物のパスタを食べるならイタリアへ、と考えるのが普通ですが、かつてイタリア領だったイストラ半島からクヴァルネル地方にかけてのクロアチア西部も、イタリア料理を母国料理としています。いまはクロアチアに帰属するので、むしろこれもクロアチア料理と言うべきかはわかりませんが、本質的にはイタリア料理そのものです。
オリジナルの生パスタに、イストラ半島のフジ(fui)[26,27]、クヴァルネル地方のシュルリツェ(urlice)[28]があります。フジは薄紙を巻いて丸めたような筒状のパスタで、ふんわりした軽い食感が特徴です。ソースの風味を楽しむのに適しており、煮込んだ肉の付け合わせ的に出されることが多いです。シュルリツェは、クルック(Krk)島を中心にクヴァルネル地方で作られる、歯ごたえのある食感の数センチの棒状のパスタで、捻りが入った特徴的な形をしています。肉、魚介類など、どんなソースとも相性がよい、食べ手のあるパスタです。
スパゲッティの他、ラザニェ(ラザニア)[29]、ニョキ(ニョッキ)[30]が、よく食べられています。またリゾットは多くのレストランのメニューに見られ、イカを素材とする料理が多いこともあって、イカ墨のリゾット[31]が定番になっています。魚介類のリゾット[32,33]もよく見られますが、スープ同様、ダルマチア地方ではトマト味になることが多いです。
ピザはイタリアに負けず劣らず普及していて、安くて手軽な食事として人気があり、ピッツェリアはどの町でも見かけます。ナポリ風とは違う北イタリアのサクっとした軽い生地で、あっという間に食べられます。ツレスで食べたピザ・マルゲリータ[34]は、焼き上がりを見たところ、型に入れてきっちり焼いているのが特徴的でした。
< 二皿目(魚料理) >
アドリア海のレストランでは、主菜として魚介類のメニューが豊富で、その鮮度のよさには常に驚かされました。小さな町でも中心に必ず魚市場があり、いつでも質の良い材料が手に入ります。ヨーロッパで、これだけ鮮度の高い魚介類がコンスタントに食べられる国は他には記憶になく、日本人が好きな魚介類のイタリア料理を食べるなら、イタリア本国よりクロアチア西部をお勧めしたいくらいです。
甲殻類では、ヤリイカ、タコ、手長エビ、ムール貝が多く、高級食材としてカニ、イセエビも食べられています。体調30cm以上の大型のイセエビを、レストランの生簀で見かけます。よく混同されるオマールエビ(ロブスター)は見かけません。日本で普通に見られる、茹でたり冷凍されたりしたエビ、イカ、タコを食べなれている私たちには、その美味しさは驚きです。
魚では、ヘダイ、マダイ、スズキ、サバがよく食べられています。日本のものとはそれぞれ近縁関係の別種にあたり、総じて身がしっかりして臭みが少なく旨味がよく出ています。スズキやサバときいてバカにせず、ぜひ一度試してみてください。
魚料理は日本やイタリアより安く、天然物が中心ですが、クロアチアの他店より安い場合は、タイ類は養殖や冷凍の可能性があります。
料理は、魚の種類と調理法の組み合わせで決まるという単純なものです。調理法は大抵、焼く(na aru)、揚げる(prene)、蒸し煮(ブザーラ)にする(na buzaru)のどれかです。ブザーラ[43,45-49,55]というのは、クロアチアの魚介料理を特徴づける調理法で、適当な訳語がないので「蒸し煮」としましたが、旨味を逃さぬよう穏やかに加熱し、一見グリルと似ていますが、焦げのないしっとりした風味を楽しめます。「アサリの酒蒸し」のようなイメージの、日本人好みの調理法です。
魚介のスペシアリテは、ブロデト(Brodet)[53]です。イタリアでもブロデットとして知られる、魚介類のごった煮のことです。本来余った魚を煮込んでダシを楽しんだ料理なのですが、レストラン料理としては、立派なタイ、エビ、イカ、ムール貝などを、トマト味をベースに、見栄えよく煮込んだものが出されます。魚介類の身とスープの両方を同時に楽しめる豪華な料理です。
< 二皿目(肉料理) >
肉料理は沿岸部でも一般的です。レストランでは、牛肉が通常ステーキとして出されることが多く、豚肉もしばしば、鶏肉、羊肉は時々見られます。その他、見たことはありませんが、ウサギ、七面鳥などが出ることもあるようです。
調理法は単純で、ステーキのほか、串焼き、肉巻き、挽肉を固めて焼いたもの、シチューなど、決まったパターンが殆どです。特に串焼き(ラジュナ、チェヴァプチチ)[77-79]は、トルコの影響の強い東の方でよく登場します。
グリル(ナ・ジャル)はかなり広い意味で使われているようで、日本語の「オーブン焼」、「炭火焼」を兼ねています。丸焼きにも使えるような大きなグリルがあれば、上手に焼けたグリル料理を楽しめるでしょう。
付け合せも、茹で(またはフライド)ポテト[91]、フダンソウ[92]、アイヴァル[93]と相場が決まっています。オリジナル料理として、ザグレブ風[72,73]という、チーズを詰めたり挟んだりした肉の調理法があります。
地方の食堂では、仔羊や仔豚の丸焼きを見かけますが、都市や観光地で出会うことは殆どないと思われます。
肉料理は、素材・調理法ともバリエーションに乏しいですが、魚に飽きたときや良いメニューがないときの確実な選択肢として重要です。
< デザート >
レストランのデザートのバリエーションは小さく、パラチンケかアイスクリーム[105]のどちらかになることが多いです。
パラチンケ[102,103]は、クレープのように薄く焼いたパンケーキ(ホットケーキ)のことで、ソースをかけたりフィリングを詰めて食べます。お皿で食べるしっかり目のクレープといった感じです。
ロジャータ[101]というプリンの一種とも言えるデザートが、ドブロヴニクを中心に食べられています。これぞデザートいう感じで、甘くおいしいのですが、残念ながら全国的に食べられるわけではありません。同様に、サヴィヤチャ(シュトゥルデル)[104]はオーストリアなど内陸起源のリンゴパイで、北東部限定で登場します。
飲み物はコーヒー[106]になります。西部ではイタリアのエスプレッソ、東部ではカップの底に堆積物のあるトルココーヒーに近いニュアンスとなる傾向が感じられました。